家に帰り、窓際に寝転がる。
デジカメの電源を入れ今日撮った写真を眺めていると、
昔アカウントだけ作って放置していたSNSがあったことを思い出した。
記憶にあるメアドやらパスワードやらを片っ端から入力して、
10分ほどかけようやくログインする。
フォロワーなんていないそのアカウントに、
独り言のように写真を載せた。
川沿いで撮った桜の写真。
駐車場にいた妙な猫の写真。
それから、SDカードに入っていた鉄道の写真。
高校の時に県内中を自転車で駆けまわって撮ったやつだ。
何故あの頃は、あんなにも行動力があったのだろう。
金になるわけでもないのに、毎週のように朝早くから家を飛び出していた。
まるで、昔の自分が別人のように感じられた。
前世とか、もしくは妄想かもしれない。
今のオレは何なんだ。
友達もいない。彼女もいたことない。大学もサボりっぱなし。
ここ一週間うまい棒しか食ってねぇ。
ときどきカーチャンから電話が来るが、半年以上会っていない。
オレは、どうしてここにいるんだ。
一体いつから、こうなってしまったんだ。
考える事が嫌になり、パソコンを閉じた。
翌朝。
いや、朝じゃない。起きたら昼だったのだが。
淡い期待を抱き、SNSにログインする。
オレの撮った世界を、誰かと共有したい。
そんな事を考えていた。
「1件のコメントがあります」
まじかよ。
何だこれは。荒らしか?運営からのお知らせか?
ぬか喜びとか嫌なので、斜に構えながら通知を開く。
「ンンwwwwこれは諏井見駅を通過するオト22系の写真でございますなwwww
やはりオトのジャンパ連結器は素晴らしいwwwwww最高の角度ですぞwwwwww」
目が滑るコメントだったが、どうやら褒められているようなので嬉しかった。
誰かに写真を見てもらえるなんて、いつ以来だろう。
インターネット。こいつはすごい。
友達がいないオレでも、雑誌に応募しても載せてもらう事すらできないオレでも、
こうしてコメントを貰える。
オレはその日、冷凍餃子とサラダを買った。
帰りに夕焼けを背に鳴くカラスの写真を撮った。
どうして世界の美しさを忘れていたのだろう。
つい昨日まで、どこにも居場所がないと考えていた自分がバカバカしい。
世界はオレが写すんだ。
オレに写されるために世界は存在するんだ。