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月とアリスと妄想癖
はじめまして、お月さま。
私はアリスと申します。
童話好きの親が私にキラキラしたネームをつけてしまいました。けれどそのおかげなのでしょう。物心ついた頃から私は童話的な行動ができるのです。
ほら今晩も、月光を昇って貴方のもとまで来たのです。
ところでお月さま。ひとつお願いがあるのです。少し貴方を分けてくれませんか。このお皿に乗る分だけで充分ですから。
実は、私の母が倒れてしまいました。持病の妄想癖が悪化したのです。「あの月を食べなきゃ私死んじゃうわ」とベッドの中から絶えず嘆いています。「次の満月が来る前に、今の月を食べなきゃあ、私は星に食われてしまうの」だそうです。
母が食べきれる分だけで構いません。貴方を少しスプーンですくってお皿に盛っても構いませんか。
ありがとう、お月さま。
あら、貴方って結構柔らかいのね。もっとザラザラしているのかと思っていました。冷たくて乾燥しているものだとばかり――ごめんなさい。偏見ですね。
貴方と眠ったら良い夢が見られそうですね。
ね、ここは静かな場所ですね。誰もいなくて――。考え事なんてするのには向いていそう。でも退屈にはなりませんか? 私はあまり静かだと落ち着かないタイプで。え、兎? ああ、なんだ、いるんですね兎。今はどこかお出かけしてます?
…お休み中ですか…兎さん達…。静かにしますね…。
ええっと…これくらいで、いいと思います。ありがとうございました。…また来ても良いですか? 静かにしますから。
ありがとう、お月さま。
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